米麦

大田原市花園

西岡 智子さん

米農家

連綿と続く田園風景を残し
農村の知恵も伝えていきたい

就農のきっかけ

「いずれは家業を継ぐ」と心に決めていた

14代続く米農家の長女に生まれ、幼いころから家の周りに広がる田園風景を見るのが好きでした。田んぼに息づく小さな生き物、稲の葉擦れの音、夕立の後に立ち上る土や葉の独特の匂い…。自然を五感で感じ、田んぼにひたむきに向き合う父の背中を見て育ちました。

大学卒業後は養護教諭となり、結婚後は夫の転勤について静岡へ。父の病気をきっかけに子どもたちを連れて実家に戻り、約7年間父とともに米作りに励みました。父亡きあと、周囲は女手一つで農業することを心配してくれましたが、「いずれは自分が」と決めていたので家業を継ぎました。

私のチャレンジ

展示会や商談会に参加。人脈を広げて日本酒もカタチに

14haの田んぼに有機質肥料を投入した土づくりを行い、就農3年目に食味のよい、納得のいく米ができました。こだわりの米を通常の流通過程に乗せるだけではもったいないと、展示会や商談会に積極的に参加。人脈も広がり、通信販売やマルシェなどを通じてより多くの人に食べてもらえるようになりました。また、栽培した米を米粉にし、パティシエの妹と考案したお米のおやつシリーズ「kome ko de oyatsu」も大好評で、妹が経営する菓子店も地域で有名に。

さらに「自分で作った米のお酒が飲みたい」と思っていたところ、宇都宮酒造さんと出会い、2年をかけて昨年11月に「四季桜 純米吟醸ARUSHIROI(アルシロイ)」が完成しました。濃厚で辛口なお酒で、初めて飲んだ時は代々田んぼを守ってきてくれた先祖や酒蔵の方への感謝の気持ちがわいてきました。今後はみりん作りも挑戦したいです。

農業ってこんなところが面白い

農業は作物を作るだけの場所じゃない

掘り下げれば掘り下げるほど、農業は昔からの「生活そのもの」であることに気づきます。農業を「仕事」とは思えない。義務感や使命感ではなく、好きで楽しいから限りなく続けていける。もちろん、重いものを持ったり、腰が痛かったり、自由に旅行に行けないなど、大変なことはあります。

でも、農業者しか見られない、奇跡の瞬間や風景に出会えます。風のない日に虹が水田に映り、ウユニ塩湖のような景色を見たときは「世界一美しい風景がここにある」と感動しました。
東京の小学生に、田んぼから米についてオンライン授業を行い、生き物教室も開催しました。農業をやりながらほかの仕事もできるし、いちばん自由な職業ではないかと思います。

将来の夢・目標

農家民泊やワークショップを行って農業の魅力を若い世代へ

近所の蔵が古くなり、壊されることが多くなりました。田園風景の中にあったものを、これからも残したい。今ある風景を、未来へ引き継ぎたい。グリーンツーリズムを日本にも根付かせたいと民泊も行っているので、蔵を改修して、そうした施設として利用したり、ワークショップを行ったりできればと考えています。コロナが流行する前は、農業を体験したい学生さんを受け入れていました。

ご年配の方たちに取材を行い、農家で行われていた冬の手仕事や、農家ならではの知恵などを聞き取り、伝えることもしたい。私の活動を見て、農業や景色を守ってくれる人が後に続いてくれればうれしいです。

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