実習を通して牛と人に魅了された
高校生のときにカナダへファームステイして、牛に魅了されました。カナダでは山の環境保全のために牛を放牧していたようです。牛は子どもの頃に抱いていたイメージと違い、接してみたら怖くない。大きな体にもかかわらず、おっとりと優しい目でこちらの様子をうかがう、繊細な動物であることが、意外な驚きでした。
東京農業大学に進み、農業ビジネスを専攻。でも大学では座学が多いので現場を知りたくなり栃木県の牧場へ。この実習で牛のお産や搾乳など、牛とまっすぐ向き合う酪農家さんの姿と、餌を食べてのんびり反芻する牛の穏やかさに心を奪われたように思います。実習が終わると「またきてね」と言ってもらい、牛と人に会いたくて、実習と称して牧場に何度も足を運んでいました。
また、大学では農業ビジネスのひとつとして民泊や六次産業化の勉強もしました。授業の一環で佐渡島にある柿農家さんで民泊したり、個人的にも牧場やぶどう農園で実習させていただきました。実習では農作業と合わせて農家さんの部屋を間借りし一緒に生活する機会もあり、農家の暮らしを体験。農業の課題や魅力をリアルに感じることができました。卒業後は、実家にも近いことや実習でお世話になった農家さんや知り合いなどの繋がりもあり栃木で就職し、現在は那珂川町の福嶋牧場で働いています。

海外留学で牛の魅力を知る
昼間の自由時間を交流や勉強に活用
仕事は朝8時から10時30分、夕方16時から19時までで、土曜日の午前と日曜日が休日。月に1回連休があります。昼間に自由に動ける時間があるので、セミナーやワークショップに参加することもあります。例えば県が主催する女性農業者アグリビジネスセミナーや農泊セミナーに参加することで、新たな情報を得ることで将来のやりたいことの夢が広がったり、日々の仕事に活かしたりできています。
また、「食」についても関心があり、オーガニック料理教室に参加して日々の食事や常備菜、おむすびについて学んだり、最近は重ね煮のワークショップにも行きました。自分の心と身体の管理も仕事のひとつだと感じ日々の食事をできることから整えたり、さまざまな人たちと出会うことで心が和んだり、酪農を食という視点で見ることで新たな気づきがあったり、食に関わることが私にとって貴重な時間になっています。
牧場では160頭の乳牛を搾乳ロボット、哺乳ロボット、自動給餌機などを使い3人で飼育しています。牧場の仕事は搾乳・エサやり・哺乳がメインで牛床管理や畑の作付け、牛の体調チェックなど。私は主に搾乳牛と育成牛の給餌、またロボット搾乳牛のデータ管理や体調チェックを任されています。
給餌では季節によって牛の食い込む量が変わったり(夏は食い込み量が少なく暑さが過ぎると増える)、乳質が変わったりしますが、牛の食べる量や乳質、糞の状態を確認して餌会社の方たちにアドバイスを頂きながら餌の量やバランスを調整します。
餌の世界はとても奥が深く、餌の食い込み次第で牛の体つきが変わってきて、乳質や乳量が変化します。「こうした方がよかったかな」と反省もありますが、牛の状態が少しずつ変わっていくのを実感できる、やりがいのある仕事です。
また、お産も日常の中にあり、母子ともに健康で母牛がお乳を順調に出して、子牛もすくすく元気に育ってくれるのを見ると、仕事が報われた気持ちになりとても嬉しいです。逆に目が行き届かずに命をなくしてしまったときは、とても悲しく申し訳ない気持ちになります。日々、牛の様子を見ながら丁寧に目の前にある命を大切にしようと思って仕事をしています。

ロボット化の進む農場での仕事は時間の使い方も自由
おむすびの販売から始め、将来は牛やヤギを眺められるカフェを
現在は休みの日を利用して地元の農家さんが作るお米や農産物を使ったおむすび屋をしています。月に1回程度ですが、近所の農園や神社で開催されるマルシェに出店したり、近所の直売所などでおむすびを販売しています。最近は地元農家さんの小麦粉や旬の野菜を使った焼き菓子も加工し、売り始めました。手に取ってくださる方が農家さんや農業のこと、旬のおいしさや顔の見える食材の温かさを感じていただけたらとの思いで続けています。できる範囲で細々とですが…。
今後はもっと酪農と人をつなげられたらというのが夢です。酪農の仕事をする中で牛たちの生死を見て、食べること・生きることはどんなことか考えることがあります。街の暮らしでは生死を身近に感じる機会が少ないと思うので、食や命をいただいて生きていることなどを感じてもらえる場を作りたい。例えば牛やヤギを眺めながら、軽食やミルクティ・ラテなどを味わえるカフェです。

将来は農業と街の人たちをつなげる仕事をしたいと語る
ヤギ好きが高じて、7匹に増えた
昨年から夏場の草取りを軽減したくて、ヤギを2匹飼い始め、現在7匹になりました。牛もかわいいですが、ヤギもペットのように愛情を注げるのがとても楽しく心の拠り所になっています。ヤギ小屋を自分で設計し、ホームセンターで材料をそろえたり、近所の土木作業の上手な方に手伝っていただき小屋を作ったり、ヤギの遊び場を作ったり。ヤギの成長を見ながら楽しく飼っています。
酪農の仕事は重労働で朝が早く、休みがないイメージが強いようで「大変でしょう」と言われることがとても多いです。もちろん楽な仕事ではないですが、こちらが手をかけたり愛情をかけた分、乳量が増えたり体つきがよくなったり、目にみえるかたちで応えてくれるように感じます。自分の仕事が牛の生死や経営にかかわっているので責任感はありますが、農家さんをはじめ餌会社や機械屋さんなどたくさんの方に支えていただき、安心して働けています。
また、農家さんを見ていると農業は自分たちのやりたい方向に働き方をもっていける、経営のやり方が何通りもあるように感じます。福嶋牧場では機械に強い経営者さんが機械化を進めていたり、草刈り要員としてヤギを飼ったり、地域では民泊を受け入れている方がいたりします。そこも農業の魅力のひとつ。自分も農業(酪農)を楽しみながら、周りの人にもそれを感じてもらえる働き方ができたらと思っています。

新しく生まれたヤギの子どもたち